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物語:「ビターチョコレイト」

「ビターチョコレイト」
 
 
  
 渡されてから初めて気付いた。それぐらい、あの時の俺にはどうでもいいことだった。
「良かったらこれをお食べ」
 そう言ってばあちゃんが俺に渡してくれたのは、市販されているチョコレイト。特にラッピングがされているわけでもないのに、ヨボヨボの両手で、大事そうに抱えられている。
 
 今日はバレンタインデー。
 
 特に子供の頃からモテないわけでもなかったけど、俺は昔から甘いものが嫌いだった。汁粉とかはまだ食べられるものの、ケーキやチョコ、砂糖の入ったコーヒーなんかはもう何十年も口にしていない。もちろんこれからだって、食べることはないだろう。
 もう三十路を迎えている孫に、八十を過ぎたばあちゃんがチョコを差し出す姿は、世間にはどう映るもんなんだろうか。

 震えた手でチョコレイトを持つばあちゃんに、できるだけ嫌味にならないように、俺はこう言い返した。
「ばあちゃん、甘いもの好きだったろう。良かったら自分で食べなよ」
 痴呆気味になっていたばあちゃんには、その意味が分からなかったのか。微笑んだばあちゃんは、俺にチョコを差し出したままだ。
 何だか息苦しくなった俺は、椅子から立ち上がって、念を押すように『ばあちゃんが食べなよ』と吐き捨てる。
 ようやくその意味が分かったのか。ばあちゃんは残念そうに目を伏せて、ヨロヨロと隣の部屋に戻ってゆく。俺はその後姿に何か言おうと口を開いたが、伝えたい言葉が見つからなくて、結局口をつぐんでしまった。
 

 そうして、そのやりとりは、俺にとって一生やり直せないものになってしまった。
 

 足があまり動かないばあちゃんが、どうしても自分で買いに行きたいからと、おふくろが肩を貸してスーパーまで連れて行ったんだと、俺は後から聞かされた。えっちら、おっちら。その思いを乗せて、どこまでも時間をかけて。
 最初は悪い冗談だと思った。階段の上り下りでさえ、苦しそうな顔で足を擦っていたばあちゃん。あの足の悪さはハンパじゃない。もし家から、あの足を引いてスーパーを往復してきたんなら、帰ってくる頃にはたっぷりと日が暮れているだろう。
 痛くて辛かっただろうに、そこまでの思いをして、チョコレイトを買ってきてくれた。
 甘いものが嫌いだからという理由だけで、俺はそれを撥ね退けてしまった。
 

 何で俺はあの時、ありがとうと微笑んで受け取らなかったのだろうか。
 

 ばあちゃんは、俺がそれに気付く前に亡くなった。
 病院に見舞いに行ったときも、やれミカンを食べろだの、逆に世話を焼いてくれた。俺の想像をはるかに超えて、治療は苦しかったはずなのに、いつも誰かのことを一番に思いやってくれた、優しかったばあちゃん。
 



 あれからもう、八年が経つ。
「ぱぱ、ほらっ!たべてぇ」
 急かすように、俺の鼻先にそれを押し付けてくる娘。我に返った俺は、仰々しく娘からそれを受け取って一口。苦手な甘い味が、口いっぱいに広がった。不安そうな視線が、俺の口元あたりを彷徨っている。
「すごく美味しいな。ありがとう」
 そう言って頭を撫でると、ホッとした顔の娘が、嬉しそうに笑う。
 いつも優しかったばあちゃん。その笑顔を思い出しながら、俺はほろ苦いチョコレイトを、口いっぱいに頬張った。
 
 



 

| 「物語」のCapsule | 01:12 | comments(0) | trackbacks(0) | |

最新作品脱稿



最後の執筆からいったいどれぐらい
経ったのでしょうか。

久しぶりの掌編小説が完成致しました。
なんだかしっかりした手ごたえ。


小説:「barista」
著者:青山雄夏

お腹が空いて仕事から帰ってきたあなたに、
ちょっとだけ心あたたまるお話です。




とりあえずこちらでの公開予定はありませんが、
またいつか、どこかで。

| 「物語」のCapsule | 00:19 | comments(0) | trackbacks(0) | |

おじいちゃんとゲーム機

バイト先でどう見ても

八十を過ぎたおじいちゃんが入ってきました。

おじいちゃんはいつも無口で、

黙々と仕事をしています。



そんなある日、

たまたまそのおじいちゃんと休憩が重なり、

尋ねてみることにしました。




「おじいちゃん、なんで仕事してるの?」




10分ほどの深い沈黙の後

ゆっくりと口を開いたおじいちゃん。




「孫に、ゲームを買ってやりたいんだよ」




そうボソッと言って

再び口を閉ざすおじいちゃん。









それから2週間後、

おじいちゃんは突然来なくなりました。

連絡先を聞き、

連絡をしてみると亡くなられたとのこと。




何とか時間に工面を付けて、

お通夜に参加することが出来ました。



遺影は晩年のおじいちゃんの笑顔。

そしてその正面に座る小さい女の子の手には、

壊れるんじゃないかと言うぐらい強く抱きしめられている、




ゲーム機。








話を聞いてみると、

おじいちゃんはもう治しようがない

重い病気にかかっていたらしく、

それでも家族の反対を押し切って

職を探していたそうです。

探し回って、

何とか見つけた仕事がうちだったとのことでした。









小さな女の子は、

おじいちゃんの遺影を見ながら、

ゲーム機よりも大切な

おじいちゃんの愛情を、

泣きながらいつまでも抱きしめていました。







/FMラジオ放送より抜粋

| 「物語」のCapsule | 00:40 | comments(0) | trackbacks(0) | |

物語:「1月のpianissimo」

「1月のpianissimo」

 

 

 草っぱらに高くそびえる樹木が、その地に短い影を落としている。葉をすっかり落とした冬のケヤキは、嘘の一つも隠せないほど丸裸だ。僕の目には、心なしか枝の先が手招きしているように映った。

 ゆっくりと遠ざかってゆくケヤキを眺めるのにも飽きた僕は、向かいに座る君を眺めた。本当は、髪を下ろした方が綺麗に見えることを君も熟知しているはずなのに、今日は後ろで軽く纏めている。そして、クリーム色のチノで隠された二つの膝小僧は、今日も20センチ離れていて、油断か安心か判別しにくいいつものそれだった。

「さすがに冬は寒いねぇ」

 君はそう言うと小さく身を縮こませた。窓の隙間から北風が吹き上げるように入ってきて、僕も小さく頷き、軽く震える仕草をした。

 君の肩越しに観覧車の白い骨格が見える。網目に張り巡らされたそれは、強風にギシギシと音を立てていて、一瞬イヤな妄想を掻き立てた。僕の人生設計では今日、死ぬ予定は無い。でも、君と一緒なら、それも悪くないかもしれない。

 そんな妄想を重ねるうちに、ゴンドラが僕たちを確実にてっぺんへ運んでゆく。

 

 言わずとも無く、僕は君が好きだ。じゃなきゃ、僕はここにいない。気持ちに感づかれているのは癪だけど、会える喜びに比べたら小さなことだった。

 それでも告白をしないのは、君に付き合っている人がいるのを知っているからだ。恋に落ちる瞬間までをも、僕は目撃している。友人と一緒に街を歩いてるとき、偶然にも君と出くわして、彼を紹介したのだ。

 だけど、油断していたわけじゃない。迂闊だった、とも言えるかは分からない。なぜなら、彼はどう逆立ちしても格好よく見えない、汗っかきのずんぐりむっくりだったからだ。

 彼女の好みのタイプを後になってリサーチしてみたけど、そんな偏食履歴なんて無かった。だけど、君はそんな彼に恋をした。意外に積極的だった君のアプローチに、尻尾を振って頷く平べったい彼の顔。

 僕はこの事で何かを学習したんだろう。人は見かけで判断できないとか、人生には一回こっきりの真剣勝負があるとか、世論調査が基の信念なんて何の役にも立たないこととか。
 
真剣にそれを考えたって始まらない。高を括っていた僕の、今も拭えない敗因。

 そんな俯く僕の顔目掛けて、君のアルトが飛んできた。

「やっぱり止めとけばよかった」

「・・・えっ!?」

 彼と付き合うのなんて・・・。そういう含みだと勘違いした僕が、顔を上げて一瞬目を見開く。君はアスファルトまでの遠さを窓越しに覗き込みながら、心細そうに目を細めていた。
 
乗ろうと言い出したのは君の方だ。でも、賛成したのは僕だ。

「真下ばっかり見てるからだって」

 僕がそう言うと、君の視線が僕の背中の方に移る。きっと君にはカモメの飛ぶ海岸が見えていることだろう。少しだけ、細めていた君のまぶたが戻った。

 僕のことを見ているようで見ていない。遠くを眺めているようで、心の内を探られている。僕にとって、そんな君だった。



 てっぺんに近くなってくると、前後のゴンドラに乗る人たちが見えて、何をしているわけでもないのに恥ずかしくなってくる。それまでが誰からも覗かれない密室だったからなのだろう。前のめりになっていた姿勢を、できるだけ自然に戻した。

 もうすぐで僕らの乗るゴンドラの芯と鉄骨とが平行になる。この観覧車のてっぺんだ。カウントダウンの秒針を眺めるように、どうしても僕はそれに目が行ってしまう。重なった!と思った瞬間君に目をやると、同じような顔をして僕を眺めている君が居て、ややして僕らは笑い出した。

「私たち、こういうとこ似てるんだね」

 笑いが静まると君の口をついて出る丸い言霊。赤ちゃんの頬のように滑らかに、あっという間に僕を包んでゆく。不自然なほど真ん丸なそれを、僕はずいぶんと長く信じていた。

 誤って惑わされないよう、僕は心のドアを閉める。
 
いつも、デートに誘うのは僕からだった。そして、その度に君は快諾する。あなたの気持ちは何も知りません、そう言いたげに。でも、本当は君が何を考えているか僕は知っていた。

 好かれるのは、悪い気分じゃない。だから振り向かせたい。

 デモ。

 期待には応えられない。

 君の演技は完璧だ。そして仕草にも、口元にも、眼差しにも、そのことに対する罪悪感はない。だからこれは、気付けた僕の方が凄いのだと思う。そして、悪いのだと思う。

 


 見物人からもゴンドラの中身が見れる位の高さになってから、君は欠伸のように漏らした。

「あ〜あ、終わっちゃうね」

 君以上にそう感じていた僕も、小さく頷く。

 視界を遮るものは何もないし、会話を邪魔する人間もいない。ただ二人きりなだけなのに、どうして僕はこんなにも過剰な期待をしてしまうのだろうか。そうやって、特別な何かが起きればいいな、と観覧車に乗るたび、どこかで思ってしまうのだ。

 フッ、と僕は自嘲気味に笑う。

 君がその仕草を見て、真意を確かめるように覗き込んでくる。何も知らないフリをして、僕は長い睫毛を覗き返した。

「ねえ・・・」

「えっ!?」

「いつも、ありがとう」

 躊躇いながらもう一度、僕は小さく頷く。
 
君の耳たぶについたピアスが、微かな振動に淡く揺られていた。

 

「ドアから離れてお待ちくださーい」

 ガラス越しに係員のやる気の無い声が聞こえてくる。どこかのガソリンスタンドと似た服を着ているのに、威勢のよさは正反対だ。
 
間もなくガチャリとドアが開くと、荷物でも出すように僕らを外へと促した。寒さに顔を強張らせた君と、どこかもどかしげな僕がそれに続く。

 出入り口の柵をはさんで、相席が廃止されたことをしきりに唱えている男性とすれ違った。いや、男性と呼ぶには顔が幼すぎる。

 入れ替えに乗り込んだ若い男女は、僕らよりも遥かに楽しそうだった。だけど、向かい合わせに座った二人は、ゴンドラに入るなりその密室感からか、俯いてしまった。

 どうか、17分後にここに戻ってきた時には、二人が笑顔であるように、と祈る。

「ガチャン」
 
ゴンドラのドアを、係員が乱暴に閉めた。

 


| 「物語」のCapsule | 00:01 | comments(2) | trackbacks(0) | |

物語:「残業」

まるーん Produce

物語:「残業」


 私は咄嗟に辺りを見回した。そして、それが無駄な動きだったことをしばらくして後悔した。
 向かいにいる末澤主任は、新しい仕事に手招きをするように、勇んで営業に出て行ったばかりだ。派遣社員の小旗さんには、お願いしたところでキッパリと断られてるだろうし。水緒さんは退屈そうにネットサーフィンをしているけど、お願いなんてした日には、どんな仕上げにされるか分かったもんじゃない。いつも可愛がってくれている里宇先輩は、先週から産休に入っていた。ということは、私にとってもう頼める人物がいないということだ。
「悪いね、どうしても週明けには欲しいんだ。じゃ、頼んだよ」
「いや、今日は私も都合が・・・」
 身支度を整えた部長が、私に反論する隙も与えずに、そそくさとタイムカードを切る。恨みを込めて輪ゴムピストルを当てようとしたが、部長の背中に当たる手前でそれは床に転がった。振り向かずに挙げる部長の右手が憎たらしい。
 時計の針は、まだ六時になる間際だ。部長も少しぐらい残ってくれたっていいのに・・・。
 同じように背中を見つめていた水緒さんは、部長が立ち去るのと同時に甘い吐息を漏らす。誰とも無関係だと言わんばかりに、時計をチラ見した小旗さんは、秒針が重なると同時に更衣室へと入っていった。
 私はようやく立ち直ると、部長が置いていった書類をパラパラとめくる。三時間ぐらいかかりそうなボリュームだと値踏みし、ため息をついた。三時間の残業だと、オフィスを出るのは九時半ぐらい。家に着くのは十時過ぎになる。今日は、金曜日だ。
 居残りに慣れていないわけではなかった。もちろん、できるなら願い下げだけど。だけどこのご時世、そんなことも言っていられない。
 別に仕事が嫌いなわけでも、水緒さんを出し抜いて、不倫に奔るつもりもない。だけど、金曜日には毎週予定が入っていた。どうしても、外したくない予定だ。だから今までも極力、先輩に仕事をお願いしてきたのだ。
「ずっと欠かさずに見てきた連ドラを、どうしてもタイムリーに見たいんです」
「これでもできるだけ自炊しようって、頑張ったりしてるんですよ」
「金曜日に自宅で開ける缶ビールが、一番美味しいって知らないんですか?」
 質問されるたび、私はそう答えてきた。仕事だけの付き合いと割り切れば、会社の人に嘘っぱちを重ねることもできるだろう。だけどそれは、全部本当のことだ。
 でも、金曜日に残業をしたくない本当の理由は、別のところにあった。

 やたらとお酒臭い車両に乗り込んで数十分。やっと駅のホームに降りて、私は小さく深呼吸をする。改札を抜け、切符売り場から空を眺めると、いつの間にか雨が降り始めていた。
「・・・ツイてないな」
 止みそうにない雨を見て、思わず私は呟く。天気予報が外れたことまで、部長に押し付けられた残業のせいだと思いそうになって、慌ててやり込めた。
 手首を挙げて、時間を確かめる。九時五十五分。頑張った甲斐もあって、十時は回らずに済んだ。雨も降ってるし、多分この時間なら大丈夫だろう。私はビニール傘を買おうと踵を返した。
 その時だった。
「あれ、今帰りなの?」
 呼び止められて、心臓が思わず縮み上がる。はっきりとした、力強い声だった。
「あ・・・。は、ははは。うちの部長が怠慢で・・・」
 呂律の回らない、しかも訳の分からない返事をするあたし。
 十時過ぎぐらいにカレは、決まってこの改札を通り抜ける。どうやら上り坂の先にある病院に、ご両親のどちらかが入院しているらしい。お見舞いに行くのはいつも金曜日なんだと、前にカレから聞かされていた。
 カレはスッと私の前に立つと、電光掲示板で列車の時刻を確認しながら、傘を軽く振った。
「あれ、カオルちゃん。傘、持ってきてないの?」
 その問いかけに私は、大丈夫です、をやたら連呼する。その様子が面白かったのか、クスッとカレは笑うと、傘の柄の方を私に差し出してきた。
「ほらっ、持ってきな」
「いや、ホントウにダイジョウブですって」
「いいから。ほら、俺の気もすまないし」
 含ませ気味に、カレはそう言って私に傘を押し付ける。じゃ、と短い笑顔を見せると、間髪なくカレは改札に吸い込まれていった。握り締めた柄が、カレの体温を含んでいて、甘い気持ちになる。
 ・・・何で私は、わざわざ十時近くに帰る道を選んだんだろう。残業時間だって、本当はいくらでも調節できたはずだ。休日出勤だって、独り身なんだからできないわけじゃないし。
 あくまで偶然を装おうとする、自分のふてぶてしい態度に嫌気がさす。私は唾を吐くように、改札を眺めながら言った。
「ほら、いいことなんて何もないじゃない」
 そう言いながらも、私の眼はどうしようもなく、カレの後ろ姿を追いかけている。
 あれが・・・もうすぐパパになる、里宇先輩の旦那さんだ。







| 「物語」のCapsule | 21:38 | comments(3) | trackbacks(0) | |

物語:「合コン」

TADAY Produce

物語:「合コン」


彼女にふさわしい言葉が見つからなかった。
 弄り過ぎて、全てアイライナーで描かれている眉毛。メッシュがかった髪は、見慣れない位置で左右に分けている。そして丸みを帯びた頬は、イチゴゼリーのように柔らかそうだった。
 イチゴちゃんと勝手に名前をつけたその娘は、ちょうど僕の向かいに座っていた。でもさっきから、その目線は落ち着くことなく泳いでいる。合コンに来るのは初めてなんだろうか。
「どうよ。お目当ては見つかったかい?」
 トイレから帰ってきたタツヤが、僕に小さく耳打ちした。チラリと彼女の方を向くと、タツヤは驚いた顔を向けてくる。そして、感心したように頷くと、慣れた様子で僕の肩に手を置いた。
「世の中には、お前みたいな個性派好きもいるモンなんだな」
 タツヤはイチゴちゃんを見て、瞬時にそう値踏みする。
 ふふん。イチゴちゃんの頬のカーブの価値も分からないなんて、タツヤも哀れなやつだ。

 言っておくが、僕も合コン、初参加だ。ただし、イメトレだけは何十回もやった。
笑いの取れる会話。褒め言葉でのピンポイント爆撃。そして甘く覗き込み、錯覚を起こさせる。きっとここにいる誰もが、僕が初めてなど気付くはずがない。
 しかし、そのどれもが完璧なはずなのに、イチゴちゃんの反応は変わらなかった。食事も一通り終えると、程よく酔った男女の会話も弾んでくるはず。なのに彼女は、御座なりに社交辞令で返してくるだけだ。
「あ、タツヤくん。顔、こっち向けて?」
 カモシカみたいな細い足を組んだ女の子が、タツヤの髪についた埃を取っている。ありがとうと微笑んだタツヤの視線が、カモシカとぶつかったのが分かった。見るもの全てを焼き切ってしまうような熱いそれが、愛撫でもし合うように二人の間で絡まる。
 都会のネオンサインの半分は欲望からできている。これでまた一室、空き部屋が減ることだろう。
「・・・あ」
 その様子を見ていて自分の不備に気付き、僕はギュッと拳を握り締めた。これか、イチゴちゃんの無愛想の原因は。くそ、何度も出発前、確認したはずなのに。
 ・・・爪、切ってきてねーじゃん。
 女の子は清潔そうな男性を好む。汗っかきや寝癖はもちろん、爪が長いこともご法度だ。特にこの場では、きっと相当なルール違反なんだろう。
 何でこんな時に限って・・・。
 ふと隣を見ると、黒い服に身を包んだタツヤが、カモシカと親しげに話している。グラスを握った彼の爪は、かなり短く切り揃えられていた。
 やっぱりそうだ・・・。
 僕は立ち上がり、何でもないといった様子でその場を後にする。そして、レジ付近で若い従業員を捕まえた。
「あ、あのぉ。爪切り、ありませんか?」
「・・・はっ?」
「いやっ、爪切りを・・・貸してもらいたいんですが」
 明らかに狼狽した様子で、女性従業員が厨房の方に帰ってゆく。訝しげな顔をされるのは百も承知だ。
 爪切りを持って現れたのは、なぜか男性従業員だった。
「使い終わりましたら、一声おかけ下さい」
 挨拶もそこそこに、僕は血相を変えてトイレに駆け込み、慌てて爪を切った。あまり長く席を外してると、トイレでしゃがんでるんじゃないかと妙な疑いを持たれてしまう。
 パチ。パチ。
 手を洗い終えたサラリーマンが出ると、爪を切る音が、誰もいないトイレにこだました。
 イチゴちゃんとの会話も、これならもっと弾むに違いない。そしてカノジョは、安心してカラダを委ねて・・・。
 僕は首を左右に振り、ヤスリで丁寧に爪を磨き上げた。

 先ほどの従業員が、胡散臭そうに僕から爪切りを受け取った。いっそのこと両手を差し出し、切り揃えた爪でも見せてやろうか。・・・無意味な行動と思い、僕は留まった。
 踵を返して客席に戻ろうとすると、イチゴちゃんと話をするタツヤが見えた。
 ・・・俺を出し抜くとはいい根性だ。
 文句の一つでも言ってやろうかと、勇ましく足を向ける。だけど、思いとは裏腹にシリアスな会話だと分かり、僕は盗み聞きすることに決めた。
「・・・して?タイプじゃない?」
 タツヤの問いかけに、フルフルとイチゴちゃんが首を振る。タツヤは親指を僕の席に向け、問い質していた。自分の話だと気付き、一歩後ずさる。
 イチゴちゃんは、かなりの間があった後、俯いていた顔をタツヤに向けた。
「今までずっと、待ってばっかりだったから・・・。だからもう、そういう人は、ダメ、なんです」
 タツヤ以外に、誰もその話を聞いていなかった。だけど、場違いな発言だと思ったのか、イチゴちゃんは再び俯く。少しの無言のあとに、タツヤのはっきりした相槌が聞こえた。
 イチゴちゃんの見せた視線は、真剣そのものだった。真剣に、恋人を探していた。
 彼女の過去に、どんな経験があるのかは分からない。だけど、それを聞いたところで、きっと彼女は答えないだろう。人は現在と未来に生きている。彼女の視線は、そんな意志を持っていた。
 きっとタツヤも、悪い印象は持たなかっただろう。初めての合コンというのは、本来あああるべきなのかも知れない。
 身を翻して、僕は廊下の陰に隠れた。
 僕は今日の待ち合わせに、三十分遅刻した。売店で牛乳を飲み、コンビニにゴムを買いに行ったのが、その理由だ。あらゆる可能性に高揚しながら。あられもない女性の姿を妄想しながら。
 イチゴちゃんはそれっきり、黙り込んでしまった。横でカモシカが、これ見よがしに脚を組み直す。何人かの男が、その仕草を盗み見しているのが分かった。
 壁に背を擦りながら、ズルズルとその場にしゃがみ込む。キレイに整えられた爪が、妙に恥ずかしくなった。







| 「物語」のCapsule | 04:38 | comments(4) | trackbacks(0) | |

乳液を必要な分だけ、裏話


1ヶ月半に渡る、
「乳液を必要な分だけ」
後編のご愛読。


本当にありがとうございました!

公開している最中も
「椿の作りこみが弱すぎる」
「セツナの病院シーンが良かった」
「タイジュが格好よすぎる」
「菊池と俺、似てるんですけど・・・」
等、小説の中身についての叱咤激励誹謗中傷。
直接感想を頂いた方にも本当に感謝。

また
「隠している執筆作品があるならもっと見たい」
「一般公開はもったいないから公開して欲しくない」
など、作家青山に頂いたアドバイスやご指摘。

及び
「いつもの独り言や詩も合間に書いて欲しい」
「ヒット数が少ないのは長編公開が理由。
ボリュームがありすぎるから一般人は読まない」
など、ブログの運営についてのお話など、
多種多様な言葉を頂戴していました。

密かに人に影響されやすい性格なので(笑)
いろいろと迷いもしましたが、
今は読んでいただける読者の方がいるという理由で、
とても満足しています。

そんな中、気持ちを改めさせてくれた友人の一言。
「俺はブログに公開したお前の作品は絶対に読まない。
本になって店頭に平積みされているお前の作品を、
お金を払って買って読みたい」

・・・身の引き締まる一言。


さあ、
次は作家の登竜門、
「小説すばる新人賞」だ!!

| 「物語」のCapsule | 00:05 | comments(0) | trackbacks(0) | |

物語:「乳液を必要な分だけ」最終章

24話(最終章)


長編小説の指定の公開期間は
終了いたしました。

拝読希望の方は管理人まで。

| 「物語」のCapsule | 00:34 | comments(3) | trackbacks(0) | |

乳液を必要な分だけ、裏話

前回に引き続き、今回もキャラクタープロフィールを
公開しちゃうよぉぉぉぉ!!!!!
(寝不足の為、はいてんしょんご容赦を・・・)

萩村紅葉
身長:166センチ
体重:非公開
年齢:21歳
誕生月:10月
星座:天秤座
ファミレス:ホール担当
勤務時間:(ランチ)・アイドル・ディナー
外見特徴:指先が細い・まつげが長い・細身・パンツ派・サバサバした声質・サラサラの長い髪(以前はショートだった)・オシャレ・華やか・スモーカー(クール)
内面その他:皮肉げ・意地っ張り・我慢強い・香水好き・マイペース・クシャッと笑う・コーヒーはブラック・夏でもホット

野原大樹
身長:178センチ
体重:69キロ
年齢:23歳
誕生月:2月
星座:水瓶座
ファミレス:キッチン担当
勤務時間:ディナー・グレービー
外見特徴:天才肌・頭脳明晰・精悍・低い声・ジャケットを好んで着る・スモーカー(パーラメント)・寡黙
内面その他:洞察力に優れる・ぶっきらぼう・社交性は乏しい・ポーカーフェイスは得意も意外に情熱家・炭酸は一気飲み・ジッポはいつも携帯

葦沢雅
身長:155センチ
体重:ひ・み・つだす
年齢:21歳
誕生月:3月
星座:魚座
ファミレス:ホール担当(時間帯責任者)
勤務時間:全時間帯
外見特徴:艶のある声・二重まぶた・たまご型の輪郭・変な喋り方をする・着重ねファッションがうまい・歩き方に特徴がある・コンニャクゼリーな感じ
内面その他:食いしん坊・人徳がある・社交性がある・責任感が強い・嫉妬深い・他人と一線を置く

菊池成澄
身長:184センチ
体重:57キロ
年齢:20歳
誕生月:4月
星座:牡羊座
ファミレス:ホール担当
勤務時間:アイドル・ディナー
外見特徴:体のラインが細い・前髪を下ろしている・CKを好んで着る・腕が長い・おしゃべり・見かけに反し大食い・サボり癖あるも真面目・酒好き
内面その他:お調子者・素直・人懐っこい・マメ・音痴・不器用

柳沢刹那
身長:148センチ
体重:相当華奢
年齢:22歳
誕生月:6月
星座:双子座
ファミレス:ホール担当
勤務時間:(モーニング)・ディナー
外見特徴:セミロングの濃茶髪・頬が白い・心遣いが顕著・悲壮感のある眼・スカートやセーターを好む・浮遊感のある雰囲気
内面その他:先読みをする・ネガティブ思考・献身的・人を選んで会話をする・地下鉄でファミレスに通勤している



はぁ、はぁ、はぁ。
こ、こんなんでいいでしょうか。
(なぜか息切れをしている青山)
楽しんで、いただけましたでしょうか。
(息切れではなく実は呼吸困難だったり)
み、みんなが楽しめたんだったらそれでいい。
それでいいんだぁぁぁぁぁ!!!
(足早に過ぎ去ってゆく足音)
ぁぁぁぁ・・・ぁぁ・・・ぁ・・・。
(そして誰もいなくなった)



・・・Zzz・・・Zzz・・・。
(笑)

| 「物語」のCapsule | 00:18 | comments(0) | trackbacks(0) | |

乳液を必要な分だけ、裏話

さて、
「乳液を必要な分だけ」後編。
お楽しみいただいてますでしょうか。

ここら辺で、読者様でもひいきにする
キャラクターが出てくるかと思います。
「スラムダンク」とかがいい例で、
「流川くんが好きっ!」とか「ミッチー最高!」
とか皆さん言ってましたよね(私だけ?)
自分の好きなキャラを応援するというのは
どんな物語でも自然なことで、
逆に著者側としては、そろそろ読者に
ひいき目で見てもらえるキャラがいないと、
作品として魅力があまりない、という事にもなります。

というわけで、勝手に各キャラにファンがいると
仮定して、主要キャラのプロフィールを
ここに公開しちゃいます!
お目当てのキャラのあられもないプロフィールが、
今ここに明かされます(笑)


藤枝星児
身長:174センチ
体重:63キロ
年齢:22歳
誕生月:7月
星座:蟹座
ファミレス:キッチン担当
勤務時間:ディナー・グレービー
外見特徴:短い黒髪・手が大きい・スタジャンを着ることが多い・腕時計を必ずしている
・肩掛けカバン愛用
内面その他:思いやりがある・長考思考・家事は好き・思い込みが激しい・仲間意識が強い・煙草の匂いは嫌い・トマトが大嫌い・社交性が高い

蓮波椿
身長:159センチ
体重:非公開
年齢:19歳
誕生月:1月
星座:山羊座
ファミレス:ホール担当
勤務時間:ディナー
外見特徴:大きな瞳・幼な顔・小さな手のひら・白いふくらはぎ・カーディガンを好んで着る
内面その他:妄想癖あり・電脳派・お調子者・勉強嫌い・弱ナルシスト・浮遊感のある口調・食べるの大好き・俳優のサトシ(イメージ:妻夫木聡)くんが好き・基本能天気


まあ一部ですが、こんな感じで作りこんでいます。
次回の裏話で引き続き他のキャラクターも公開いたします。

ではでは、皆様新年早々、
私のようにお風邪などひかぬ様(苦笑)

| 「物語」のCapsule | 00:13 | comments(2) | trackbacks(0) | |

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